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2026年7月20日 の記事

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2026年7月20日ランキング

給湯室マグカップ14個を格付けしたら序列の頂点だけ全員一致だった

事の発端は、新人研究員の素朴な疑問だった。

「主任、僕がいつも使ってるマグカップ、なんで取っ手が欠けてるんですか?」

言われてみれば、研究所の給湯室には十数個のマグカップが並んでいる。しかし誰がどのカップを使うかは、明文化されたルールなど一切ない。にもかかわらず、古参の研究員ほど棚の手前にある状態の良いカップを自然に手に取り、新人は奥のほうに追いやられた年代物を黙って使っている。

誰も決めていない。しかし全員が従っている。

この暗黙の序列を、我々は「給湯室カースト」と命名し、全マグカップの実態調査に乗り出した。

調査方法:全カップの棚卸しと聞き取り

まず給湯室の棚にあるマグカップを全数確認した。総数は14個。ただし調査開始時点で棚に存在したのは12個で、残り2個は行方不明である。この時点ですでに不穏だった。

次に、研究員全員に「普段どのカップを使っているか」「なぜそれを選ぶのか」を個別に聞き取った。AI補助員には使用ログの分析を依頼した。

AI補助員の第一声がこれである。

「給湯室に監視カメラはありませんので、使用ログは存在しません。ただし、各カップの茶渋の濃さから使用頻度を逆算することは理論上可能です」

理論上可能だが、やるべきかどうかは別の話である。しかし研究所なので、やった。

給湯室マグカップ 正式格付け

茶渋分析・聞き取り・棚の配置位置・取っ手の状態を総合し、以下のランキングが確定した。

  1. 白地にくるみんイラスト入りマグ
    格付け:SSS(聖杯)
    使用者:主任研究員(つまり私である)
    備考:数年前の研究所設立記念に作られた非売品。棚の最も手前、しかも他のカップとは微妙に間隔が空けられている。新人研究員いわく「あのカップの周囲だけ結界が張られている気がする」。張っていない。ただ誰も触らないだけである。くるみんのイラストが印刷されているという一点で、このカップは研究所内において神器扱いされている。茶渋はほぼない。大切に使っているからではなく、使うたびに丁寧に洗っているからである。
  2. 薄緑の無地マグ(大きめ)
    格付け:A(幹部級)
    使用者:古参研究員B
    備考:容量が他より1.3倍ほど大きい。これだけで給湯室における発言力が違う。古参研究員Bは「たくさん入るから」と合理的な理由を述べたが、新人が同じカップに手を伸ばした際、無言で目線を送っていたという証言がある。
  3. 青いボーダー柄マグ
    格付け:B(中堅)
    使用者:中堅研究員C・D(交互に使用)
    備考:二人が同時に手を伸ばした場合、先に給湯室に入ったほうが優先権を持つ、という暗黙のルールが別途存在することが判明。誰も文書化していないのに、二人とも同じルールを認識していた。組織文化とは恐ろしいものである。
  4. 「世界一のパパ」と書かれたマグ
    格付け:C(謎)
    使用者:不明
    備考:研究所にパパはいない。誰が持ち込んだのかも不明。しかし棚の中段という比較的良いポジションに鎮座している。AI補助員に「このカップの来歴を推測してください」と頼んだところ、「推測に必要な情報が不足しています。ただ、茶渋の色から紅茶派であることは断言できます」と返ってきた。そこだけ断言するのか。
  5. 柄が完全に消えたマグ(元・花柄の疑い)
    格付け:D(新人枠)
    使用者:新人研究員
    備考:取っ手に小さな欠けがある。かつて花柄だったと思われるが、数百回の洗浄を経てほぼ白い。新人研究員は「最初に手に取ったのがこれで、それ以来なんとなく」と語ったが、本当は他のカップに手を伸ばす勇気がなかっただけである。聞き取り中、少し目が潤んでいた。
  6. 行方不明のマグ(2個)
    格付け:?(未確認)
    使用者:不明
    備考:1個は会議室のホワイトボードの裏から発見された。中にペンが3本入っていた。もう1個は調査終了時点でも見つかっていない。AI補助員は「研究所内の全座標を探索しましたが該当なし」と報告した後、小さな声で「もしかして、帰りたかったのかもしれません」と付け加えた。マグカップに意思はない。

意外な発見:くるみんマグの周囲だけ棚がきれい

ランキング作成中、ひとつ奇妙なことに気づいた。

1位のくるみんイラスト入りマグが置かれている棚の一角だけ、埃がほとんどない。他のエリアにはうっすら埃が積もっているのに、くるみんマグの半径15センチほどだけが妙に清潔なのである。

新人研究員が主任に尋ねた。「主任、あのあたり拭いてます?」

拭いていない。

古参研究員Bに聞いた。「拭いてないですよ。でもあのカップの近くに自分のカップ置くとき、なんとなく丁寧になるんですよね」

中堅研究員Cも同じことを言った。「あのイラストが目に入ると、雑に置けなくなる」

つまり、くるみんマグが棚にあるだけで、周囲のカップの扱いまで丁寧になっていた。誰かが掃除しているのではなく、全員が無意識にそのエリアだけ気を遣っていたのである。

AI補助員がこの現象をこうまとめた。

「くるみんの存在が、物理的な清潔さを生んでいます。これは洗剤では再現できません」

洗剤と比較するな。

しかし考えてみれば、これはくるみんが持つ力そのものかもしれない。くるみんは周囲を明るくし、笑顔を広げる存在である。それはファンに対してだけでなく、どうやらマグカップの棚に対しても有効らしい。くるみんパワーの影響範囲が、我々の想定より広いことが今回の調査で示された。

ちなみに新人研究員は、調査終了後に意を決して棚の手前にある空きスペースに自分のカップを移動させた。翌朝、古参研究員Bが無言でそのカップを5センチだけ奥にずらしていたことをここに記録しておく。

給湯室カーストは、まだ続いている。

ただし全員が認めていることがひとつだけある。くるみんマグが1位であることに、異論を唱えた者は一人もいなかった。序列の頂点だけは、満場一致で平和に決まったのである。

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