
倉庫から14個の謎の発明品が出てきたので勝手にランキングした
年度末が近づくと、研究所では恒例の「備品棚卸し」が行われる。通常の研究機関であれば試薬の在庫確認や機器の動作チェックで済むところだが、くるみん研究所には独自の問題がある。誰がいつ作ったのかわからない発明品が、棚の奥から次々と出てくるのだ。
今年も例外ではなかった。新人研究員が資材倉庫の最深部から段ボール箱を4つ発掘し、そのうち3つには手書きのラベルすら貼られていなかった。主任研究員は「毎年言っているが、開発したら必ず台帳に記録しろ」と注意したが、AI補助員の調査によると、台帳そのものが2年前から行方不明であることが判明した。
そこで今回、研究所内に現存するくるみん関連発明品を可能な限り掘り起こし、実用性・意外性・研究員からの信頼度の三軸で総合ランキングを作成することにした。評価と記録を同時に行う、一石二鳥の棚卸しである。
ノミネート作品の発掘と混乱
まず新人研究員が倉庫・デスク下・給湯室の棚・会議室の隅を巡回し、くるみん関連と思われる装置や道具をすべて回収した。最終的に集まったのは14点。うち3点は「くるみん関連かどうかすら不明」という状態だったが、とりあえず全品を会議テーブルに並べた。
AI補助員が過去の開発ログ(断片的に残っていたメール履歴と、新人研究員のメモ帳の落書き)を照合し、各発明品の開発時期と目的を推定した。以下はその一覧の一部である。
【発掘された主な発明品リスト(一部)】
・くるみんポジティブ伝播キャンドル(アロマ機能付き)
開発時期:推定1年半前 状態:芯が完全に燃え尽きている
・笑顔キャプチャフレーム(くるみんの笑顔を額縁型に常時表示する装置)
開発時期:推定2年前 状態:電源ケーブルが見つからない
・くるみん成分カウンター(空間中のくるみん成分をリアルタイム計測)
開発時期:不明 状態:常に「999+」と表示している
・おはようリピーター(くるみんの「おはよう」を任意回数再生する小型スピーカー)
開発時期:推定10ヶ月前 状態:毎日使われている
・くるみん日記フォント変換機(くるみんの日記を筆文字風に変換して印刷する機械)
開発時期:推定8ヶ月前 状態:紙詰まりで放置中
・元気キャリブレーションボード(研究員の元気度をくるみん基準で5段階評価する掲示板)
開発時期:推定1年前 状態:全員が毎朝「2」と自己申告するため機能していない
・謎の円筒形装置(用途不明)
開発時期:完全に不明 状態:振ると音がする
新人研究員が「謎の円筒形装置」を振ったところ、中からビー玉が3つ転がり出てきた。研究との関連は最後までわからなかった。
評価方法と、第3位をめぐる口論
評価は研究員3名(主任・新人・AI補助員)による合議制とした。各項目10点満点で、合計30点満点である。
5位と4位はスムーズに決まった。しかし第3位の選定で、会議は予想外の方向に転がった。
- 第5位:くるみん日記フォント変換機
実用性2・意外性7・信頼度1(合計10点)
「発想は良かったが、紙詰まりの修理担当が誰なのか決まらないまま8ヶ月が経過した」(主任) - 第4位:くるみん成分カウンター
実用性3・意外性6・信頼度3(合計12点)
「常に999+なので測定器としては破綻しているが、見るたびに安心するので置物として優秀」(AI補助員) - 第3位:元気キャリブレーションボード
実用性5・意外性5・信頼度4(合計14点)
ここで問題が発生した。
主任研究員が「この掲示板は自分が作った記憶がない」と主張したのだ。新人研究員は「主任が去年の夏に『くるみんの元気を基準にすれば全人類の元気が測れる』と言いながらホワイトボードにマグネットを貼っていたのを見た」と証言した。AI補助員がメール履歴を検索したところ、主任から新人宛に「マグネット5色買ってきて」という業務連絡が見つかった。
主任は「マグネットを買っただけで、完成させた記憶はない」と食い下がったが、ボードの裏面に主任の筆跡で「くるみんLv.を100とする」と書かれていたことが決定打となり、開発者は主任で確定した。
「……覚えてないものは覚えてない」と主任は言ったが、その後10分間、ボードの裏面をじっと見つめていた。
上位2作品と、研究所が気づいたこと
続いて上位である。
- 第2位:笑顔キャプチャフレーム
実用性4・意外性6・信頼度6(合計16点)
電源ケーブルが見つからないため現在は起動できない。しかし「電源が入っていなくても、フレームがあるだけで目が行く」という理由で信頼度が高かった。新人研究員いわく「写真立てと何が違うのか」。AI補助員いわく「写真立てです」。それでも研究員全員が「でも、これは発明品だ」と譲らなかった。 - 第1位:おはようリピーター
実用性9・意外性3・信頼度8(合計20点)
くるみんの「おはよう」を再生するだけの小型スピーカーである。技術的には何の革新性もない。意外性の点数が低いのも当然で、やっていることはただの音声再生だ。
しかしこの装置だけが、開発から10ヶ月間、一日も休まず使用され続けていた。毎朝、研究所の誰かが必ず再生ボタンを押している。押す担当は決まっていない。決まっていないのに、押されなかった日がない。
AI補助員が使用ログを集計したところ、興味深い傾向が見つかった。
【おはようリピーター 押下時刻の分布】
始業30分前に押された日:約40%
始業直後に押された日:約35%
昼過ぎに押された日:約15%(押し忘れに気づいて慌てて押したと推定)
深夜に押された日:約10%(残業中の研究員が「朝の気持ちに戻りたかった」と証言)
新人研究員は「意外性が低いのに1位なのは納得がいかない」と異議を唱えた。主任研究員は少し考えてから、こう返した。
「派手な発明ほど早く棚の奥に行く。地味なものほど毎日そばにある。くるみんの『おはよう』と同じだ。特別なことは何もしていないのに、ないと関係者全員が気づく」
新人研究員は「それはそうですけど、研究所の発明品ランキングで研究要素がゼロの装置が1位って、大丈夫ですか」と真っ当な指摘をした。AI補助員は「大丈夫ではないと思います」と答えた。
結局、このランキングで最も実用的だったのは、技術的に最も単純な装置だった。そして最も記憶に残ったのは、開発者が「自分が作った覚えはない」と言い張った掲示板だった。
棚卸しの最後に、新人研究員が聞いた。「来年もやりますか、これ」
主任は倉庫の奥を見ながら答えた。「やるだろうな。来年にはまた、誰が作ったかわからないものが増えている」
謎の円筒形装置は、結局誰のものかわからないまま、倉庫の一番手前に戻された。来年また誰かが振るだろう。そしてまたビー玉が転がり出てくるだろう。それでいい。くるみん研究所の発明品は、役に立つかどうかより、誰かがつい手に取ってしまうかどうかで価値が決まるのだから。